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/ OKAZAKI NIGHT / 村上隆マンガ道場

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名前のこと

ペンネームとか、今はそんなことしないけど、筆者紹介の所に「ブルネイ生まれ」とかさ、「皇族の血を引き、没落。後今に至る」とか嘘のこと書いたりして、写真にトンガリ人入れたりする。そういう瞬間って、あると思うんだよね、今はしないけど。そういった意味で自分自身は“岡崎京子”じゃなくてもいいなと思います。まあでもペンネームってのは一種の瞬発的なものであって、本当にしなくて良かったと思ってる。人生って長いからさあ。マンガ家の人で、たくさん間違ってる人っていますよね。リョウコキスモトとか、エンゼル松本とか。間違えてるなって、思うもん。でもそういう時の衝動みたいなものは人の事ビックリさせてやろうとかっていうことだけじゃないから。ペンネームくらいじゃないですか、自分に名前を作れるのって。やっぱり作品のなかでは、昔のマンガじゃないけどキサラギなんとか…とかよりも佐藤浩一とか…ちよっとちがうけど。鈴木洋子とかの方がいい。ただ、その人とかの夢とか幻想とか込められてたりするっていやじゃない?春風くららとか、自分の子供に幸子とつけられるくらいに嫌だな。

アシスタント

アシスタントは今4人位。四角い机を買ったんだけど大きすぎて、ちゃんと測って無印で買ったのに、届いてからこんなんじゃなかった〜って事に。アシスタントには、パースのつくものは全てやってもらってますから。私が家を描くとエッシャーのようになってしまうんです。だから、背景なんかかけなくても漫画家にはなれます。

マンガ家への道

マンガは好きでよく描いてたんだけど、高校に入って音楽を聞くとか男の子と付合うとかの方がたのしいなって思って、短大に入った時にマンガってそんな描いてなかったんだけど、たまたま武蔵美に行ってる友達が学漫を描いていて、誘われたんですよ。当時コミケとかできてたんですよ。でも私コミケとかって興味なくって投稿とかも、高校のころ、16頃?一回落ちて、すごい久し振りに、武蔵美の学漫に載せてくれたんですよ。そしたらそれを東京おとなクラブの人が見て載せてくれるっていって、学漫のが載って、そして今度、白夜書房でフリーのライターやってた大塚英二氏の目にたまたまとまって、白夜書房のエロ本に月づき4枚描かせてもらってページがどんどん増えてコミックがでて21歳でデビューってことになりますけど。月収は一万円とかで、仕事っていう程のものではないですが、嬉しかったですけどね。  人のアシスタントも向いてないです。物をひっくり返したり力あまって紙をグチャグチャにしたりしちゃって。一回桜沢さんの家でやった時ウーロン茶飛ばしちゃって、原稿に。隠しながら直した。自分の原稿だったらいいけど、他人の原稿じゃん。手伝いは向いてないなって思った。マンガ家っていっぱいいるけど、成り方って少ししかないよね。アシスタントからいくっていうのは少ないよ。逆に今雑誌の数がスゴイ増えてるでしょう。あとコミケみたいなものがスゴイお金になってるみたい。だからアシスタントってスゴイ減ってるみたい。つらい仕事ではあるしね。コミケって税金かからないから、売ったお金は全部入るでしょ。わたしも「コミケださなきゃ」って思わなかったんだけど。アサダさんに進められて。「自我捨てなきゃ」って言われて。結構短い時間で的確に突いてるなって。あそこ巨額のお金が動いているらしいよ。有名なサークルでは、昔のジャズミュージシャンのような。コミケいいぞう。当たれば。資本主義の裏ってことで、アサダさん進めたのかな。わかんないけど。あれ不思議な流通マーケットになってるよー。ちゃんとファンがいて20万部も…売れないよ、普通。新人漫画家で、講談社とかは5万部か3万部じゃないと単行本出してくれないし、青林堂だと1万部くらいでしょ。なんかマンガに対して変な事が起こってますよ。コミケをオタクの巣というよりお金の動きが気になる。流通が別のルートで動いて、しかもそれは企業じゃないところ。自分の表現したいっていうんじゃなく、ウケる漫画を描ければ売れちゃうんだもん。ストーリーじゃなくて、多分気持ちのいいシーンを描いてればいいとかで、私もやろうかと思った。でも「あんな所にいるのカッコ悪いな」と思って…やめました。有害図書問題っていうのもあったけどフェミニズムからんでるからひとことで言えないと思う。どこまで出版社が作家を守れるかっていうのもあるし。守れなかったしね。今落着いちゃってるけど。

マンガ家の秘密

登場人物の名前はね、テキトー。話とかはパーツパーツでバラバラに考えてネームって作業やってるときに決める。別にいろいろなこと調べたりもしない。登場人物の顔って、下書き描くときはぜんぜん決めてない。長い話だったりするとそうでもないけど、40ページくらいの話だと描くまで顔なんかはわからない。大体イメージあるけど髪の毛どれくらいかなとか着る洋服とか困るもん。マンガって具体的に描かなくちゃいけないから“ズボン”とか“スカート”とかなるのもイヤだしムズカシイよね。ネームっていう話考える一種の脚本自体は、1日か2日でつくって、絵自体は2日アシンスタント入れちゃえばいい。だから全部で4日。早いんですよ。でも締め切りには遅れるんですよ(笑)。だけど普段そのことに関してなにも考えてないわけじゃないから、漠然とこうしようかなとか思ってるから、逆に机の前座ったからってその事ばっかり考えてるわけじゃないけど。手を動かす作業は早いよ。下描きだったら、1日に20ページくらいやっちゃう。

連載と雑誌の事情

ストーリーは描きながら考えます。連載してる時は何も考えてない。最後とか。大体のラインはあるんだけど。道路も曲がっちゃうとどっか行っちゃったりするじゃない。千葉県に行こうとしたら蓼科に行っちゃったり。漠然と最終予定はあるんだけど決定はしていないのよ。だからこのエピソード入れたら全然話が変わっちゃった、みたいなことになって‥。そういった意味ではね、吉本ばななさんはラストだけは決まってるっていうけど、決まってないんだ、これが。連載は三回以上分かんないな。三回で完結する読み切りのやつだとこれをこう配分して、みたいな感じだけど。『PINK』も全然決まってなかったもん。もともと何もなくて、キャラクターだけあって展開するだろうな、って置いといて「ああ、こうなっちゃってるな」って(笑)。で、よくあったんですけど、私が連載してる雑誌が途中で潰れたりしたんですよ。だから12回連載だったのに、10回目で終わるとか。全部じゃないけど、逆に言うと、雑誌の変わり目の時に私が載りやすい人だったんですよ、きっと。雑誌自体がいろいろ変わって行った時期だったから、たまたまだったんでしょうね。ジンクスとかじゃなくって、あたし以外の外側の作業の方が大きいと思う。朝日ジャーナルとか、平凡パンチが潰れたりすると痛いよね。痛いっていうか、キャーッて感じがする。雑誌自体そんなに長く続くものってないでしょう。だから、大体単行本に描き足したりするんだよね。最終回とか。

連載秘話

本当に何も考えてないっていうわけじゃないんだろうけど、逆に、最初想定した方が良かった、っていうのがある。途中で、苦し紛れでいらないキャラクター入れちゃうと、話が曲がっちゃうんですよ。ここでは言わないけど、あります。「あいつさえ出さなければ」っていうのが(笑)。長い連載で話つまると、いらない登場人物出しちゃうんですよ。漫画読んでて気を付けた方がいいのはね、作家が困ってる時は、新しい登場人物が出るから。展開に困ってるときは。で、大体登場人物が多くなりすぎて、後で収拾がつかなくなる(笑)。分かるんだ、あたし。それこそジャンプの派出所みたいなやつだったらいいけど。ドラゴンボールとか、もう全然別の話でしょう。それも何か別の楽しみだけどね。ものの整合性があってさ。一本の川のようにピーっとか行くのと、だらしなく読者と作家の欲求のためにねじ曲がって変形しちゃうっていうのと。作家本人が飽きてたとしても、人気があるんで延ばされちゃったりするのとかあるでしょう。大量生産物を作って行くのには、いいんじゃないでしょうか。おぼっちゃまくんの茶魔語とか、読者参加型みたいな漫画とかもあるしね。

本当の漫画家

漫画は子供向けの方が反応が多くって楽しいらしいよ。わたし大体15才以上とか、子供向けってあんまりやったことがないんだけど、反応無いもん。読んでくれてんのかもしれないど、全然わかんない。やっぱコロコロコミックとかに描かなきゃだめだよね(笑)。オファーは全然無いけど。ほんとの漫画家って何だか分からないけど。

サンプリング?

『Rivers Edge』の消防車のシーンはもろ『童夢』のパクリ、っていうかそのままなんですよ。アシスタントの子に「コレ描いて」って言って描いてもらったからね。消防車の資料なんかあんまないじゃん。サンプリングって言葉じゃないところで、非常にベースとしての感覚っていうか、ただ単に「あそこ写しといて」みたいな感じは多いからね。大友さんも多いけど、『トーイ』やってる人、上條さん、私、よく上條さんで、成田空港描いてもらったよ。お世話になってましたよ。ワニも。宝島から出てる、『忠牛バッファロー』っていうのがあんのよ。小林よしのりの、全然売れてないマンガなんだけど、私の宝島の担当がたまたまくれて、ワニとかって写真とかないじゃん。それちゃんと動きが出来上がってて、デフォルメされてて、きちんと描けてるんで、最初それを横に置いて描きましたね。動物園とか行ったって、寝てるだけじゃん(笑)。最初の人はそうしたんだろうけど、次の世代はそれを写す、それでラクチンっていう気もするしなあ。それは難しいところですねえ。

超レア物件紙上初公開

これは『Rivers Edge』の没になった、第一回目の表紙。想定も、若草はるなはボディビルとかやってて可愛くて強い女の子、って感じで考えてたんですけど、その3日後に、やっぱやめちゃった。これはだからすごいレアよ。まだアシスタントの子ぐらいしか見てないし。消しゴムもかけてない。急転直下全然違う話になっちゃった。登場人物の配置とか、人間関係はあんまり変わんないけど、展開の仕方が全然違う感じになりましたね。迎合しなくて良かった。表紙だけ描いて「だめだこりゃ」って思って消しゴムかけるのもスクリーントーン貼るのもあきらめた。でも変えて良かった。あのままやってたら途中で絶対飽きてた(笑)。「つまんなーい、やりたくないっすー」って。

●ここに掲載するテキストは、月刊で刊行されている「PEPPER SHOPvol,13 岡崎京子号」に掲載されたものを引用させて頂きました。