Trials to summarize OKAZAKI KYOKO's unbind comics岡崎京子の未単行本化作品を要約する試み - 森

FEEL YOUNG(祥伝社) 1996年6月号 ※「未完作品集 森」(2011年9月 / 祥伝社)に収録

ヨコタは小学生の時、授業中に校庭の一本の大きな樫の木を見るのが好きだった。じっと眺めていると深い森に見えてきて、その中に迷いこみ、探検するのが好きだった。
電話番号と呼び名しか知らないような「おともだち」と朝まで遊び、帰宅する。家にはヒトミが寝ている。そして求められるままにヒトミとセックスをし、ヨコタはヒトミが「いる」ということを確認する。彼女の体温を感じながら、昔のコトを思い出す。去年、4つの死に遭遇した。13年飼っていた実家の犬、子宮癌で体重が半分になった叔母、これから良い感じになれそうだった大学のクラスメイト、そして中学時代からの唯一の「ともだち」マブチ。

ヒトミは金持ちの家のお嬢様で、去年のクリスマスパーティで知り合った。ヨコタが着ていたベトコンのジャケットに興味を持ったヒトミが「抜け出そう」と声を掛けてきたのだ。「ベトナムの女の子に生まれてきたかったの。そして人民の為に戦って死んでいくの。」それが彼女の口癖であり、あるいはないものねだり。ヨコタはヒトミと出会った(そして一緒に眠った)夜、マブチのコトを忘れて眠った。ヒトミはヨコタの中の何かをおだやかに吸収していった。そうしてマブチや他の死体を忘れていくはずで、それはゆっくりと実現していた。

そんな折、マブチの彼女であったミソギさんと再会する。偶然に。そして「森」に迷いこんでしまうことになる。

全体のトーンは村上春樹の「ノルウェイの森」を色濃く感じる。岡崎作品に於いては「恋愛依存症 KARTE.3(UNTITLED所収)」の手触りに近い。三回連載予定の内の第一回で中断してしまったこの作品がどこへ向かおうとしていたのか、本人の口から語られるほか、知る術はないのだけれど、最初に語られるヨコタのモノローグ「すべてはばらばらでありつつ同時にすべてがつながっているということ。そしてそのことにすこやかに対処するのはとてもむつかしいということだ。」、前述の感触からとても内省的な、乱暴な言い方をすると山田視点のリバーズ・エッジが出来上がったのではないか、という気がしなくもない。